学校の体育の授業で懸垂をおこなった経験はありますか?この懸垂は、トレーニング愛好家やボディビルダーたちの間ではチンニングという名称のトレーニング種目となっています。
チンニングは、背中の筋肉をはじめとした上半身の逆三角形の体型を作る筋肉を鍛える種目です。正しく行うことで、上半身を強化する筋肉を効果的に鍛えることができるため、身体づくりには欠かせません。
この記事では筋肉博士こと、山本義徳先生が正しいチンニングの方法について解説していきます。
逆三角形の上半身を作るにはチンニング
背中の筋肉は、胸や腕のなどの筋肉のように正面から見ることはできないため、特に初心者の人はおろそかにしてしまう傾向があります。しかし、広背筋をはじめとする背中の筋肉をしっかりと鍛えることが、上半身の逆三角形を作るうえでは重要となります。
チンニングとラットプルダウンの違い
チンニングは複雑なマシンがなくてもできるシンプルな種目なので、古くからおこなわれてきました。そして今に至るまで人気の種目でもあるため、 豊富なマシンが揃うようになった現在のジムでもチンニングをおこなう人は多いのです。
チンニングをおこなうことで、マシンを用いたトレーニングにはないメリットがあります。
背中のアウトラインを作る主な筋肉である広背筋は、肩関節を内転そして伸展させる動作をおこなうことで鍛えることができます。そしてこの動作が行われる代表的な種目としてはチンニング、そしてラットプルダウンがあげられます。
ラットプルダウンは、シートに座った状態でケーブルマシンに取り付けたバーを自分の身体に向かって引く種目です。チンニングとラットプルダウンを比較すると、肩関節の動き自体は同じではあるものの、効き方には大きな違いがあります。
チンニングは多くの筋線維が動員される
両手・両足・お尻の合計5点で身体を支えるラットプルダウンに対して、チンニングは両手の2点のみで身体を支えます。ラットプルダウンは身体が安定した状態でバーを引くので筋力の少ない人でも簡単におこなうことができますが、使われる筋肉も少なくなります。チンニングは動きの軌道を安定させるために多くの筋肉が働き、筋力は必要ですがより効果的なトレーニングをおこなうことができます。
チンニングは背中をより使うことができる
身体の構造上、骨盤を前傾させると背中の筋肉はより収縮します。座っておこなうラットプルダウンよりも、足の位置が自由になるチンニングの方が骨盤のコントロールを行いやすくなるため、より背中の筋肉を収縮させることができます。
足を後ろで組んで膝を後ろに持ってくることで、自然と骨盤が前傾し、背中の筋肉を全体的に収縮させやすくなります。
チンニングとラットプルダウンのそれぞれのメリット
前述の通り、チンニングには多くの筋肉を使うことができたり、背中を使いやすい姿勢を取りやすいというメリットがあります。
逆にラットプルダウンを行うメリットは、身体が安定していることで肩関節の内転や伸展といった動きに集中しやすいことです。上半身の角度や座る位置をコントロールすることもできるため、背中の一部分をピンポイントに狙ったトレーニングをすることもできます。
チンニングのやり方
1.チンニング用のバーを両手で持ち、ぶら下がる。
2.両足を後ろで組み、大臀筋を収縮させ膝を後ろに下げる
3.背中の筋力を使って身体をあげる
4.身体を下ろして、背中の筋肉をストレッチさせる
チンニングで鍛えられる筋肉
チンニングはシンプルな種目ですが、上半身に付着する多くの筋肉が使われます。特に、背中の広がりと厚みを作る筋肉を鍛えるために適した種目です。
起始と停止
筋肉の両端をそれぞれ起始(きし)と停止(ていし)と呼びます。一般的には、筋肉が収縮するときに関節の動きが小さい方が起始、大きい方が停止とされています。ターゲットとなる筋肉がどこに付着しているか意識することで、より効果的なトレーニングを行うことができます。
広背筋
広背筋は、上半身の逆三角形を作るために特に重要な筋肉です。
起始
第7腰椎〜第5腰椎
腸骨稜(ちょうこつりょう)後面・仙骨(せんこつ)後面
第10〜12肋骨
停止
上腕骨の小結節稜(しょうけっせつりょう)
作用
肩関節の内転
肩関節の伸展
肩関節の内旋
大円筋
大円筋は広背筋と一緒に働く筋肉です。より大円筋に効かせたい場合には、わざと肩甲骨を固定して引く動作をおこなう場合もあります。
起始
肩甲骨下角後面(けんこうこつかかくこうめん)
停止
上腕骨の小結節綾(しょうけっせつりょう)
機能
肩関節の伸展
肩関節の内旋
肩関節の内転
僧帽筋
僧帽筋は、背中に全体的に覆いかぶさるように付着している面積の大きな筋肉です。広背筋が背中の広がりを作るのに対して、僧帽筋は背中の分厚さを作り出します。
起始
上部:後頭骨(こうとうこつ)
中部:第7頚椎・第1〜3胸椎
下部:第4〜12胸椎
停止
上部:鎖骨の外側後面1/3
中部:肩峰内側縁(けんぽうないそくえん)と肩甲棘上縁(けんこうきょくじょうえん)
下部:肩甲棘(けんこうきょく)内端
作用
上部:肩甲骨の挙上(きょじょう)
中部:肩甲骨の挙上・内転・上方回旋
下部:肩甲骨の下制(かせい)・内転・上方回旋
上腕二頭筋(じょうわんにとうきん)
チンニングでは肘関節の屈曲動作により、背中の筋肉だけではなく上腕二頭筋も強く関与します。
起始
長頭:肩甲骨の関節上結節(かんせつじょうけっせつ)
短頭:烏口突起(うこうとっき)
停止
橈骨粗面(とうこつそめん)と上腕二頭筋腱膜(じょうわんにとうきんけんまく)
作用
肘関節の屈曲
前腕の回外
肩関節屈曲の補助
グリップ(握り方)の違い
同じチンニングでも、グリップ(握り方)の違いでトレーニングの効果にも違いが生まれます。
オーバーグリップ
いちばん一般的なのが、順手で握るオーバーグリップで行うチンニングです。オーバーで握ることで腕を横から体幹へと引きつける動き(内転)が大きく大きくなります。肩甲骨も同時に動くため、僧帽筋の関与も強くなります。
アンダーグリップ
手のひらを前に向け、逆手で握るのがアンダーグリップです。
アンダーグリップ(逆手)で握ると、腕を前から後ろに引きつける動き(伸展)がおこなわれ、肩甲骨の動きが少なくななるため、広背筋に効きやすくなります。
さらに、アンダーグリップでチンニングをおこなうことで、肩関節が外旋された状態となるため、広背筋はよりストレッチされます。
アンダーグリップで行うチンニングは肩関節の動きを考えると広背筋に適した種目であると思われがちです。しかし、同時に肘関節の屈曲動作もおこり、上腕二頭筋への負荷が強くなってしまうという問題点もあります。
取り入れる際は、上腕二頭筋のトレーニングとの兼ね合いを考える必要があります。
パラレルグリップ
平行に並んだ2本のバーを、手のひらを向かい合わせにして握るのが、パラレル(平行)グリップです。パラレルグリップは、オーバーグリップとアンダーグリップの中間の握り方であると言えます。
パラレルグリップのチンニングを行うことで、オーバーグリップほど肩甲骨も動かず、上腕二頭筋への負担も少なくなることで、より広背筋に効果的なトレーニングをおこなうことができます。
広背筋をターゲットにしたいのであれば、パラレルグリップのチンニングをおこなうのが良いでしょう。
まとめ
チンニングを正しく行うことで、上半身の逆三角形をつくる背中の筋肉を効果的に鍛えることができます。トレーニングに慣れていくにしたがって、グリップを変えることでターゲットとする筋肉を変えることができ、身体を変えていく上で役に立つことでしょう。
広背筋が程よくストレッチされ、上腕二頭筋への負荷が少ないパラレルグリップでのチンニングが広背筋にオススメです。
監修者情報
山本 義徳(やまもと よしのり)
1969年静岡生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、ボディビルダーとして国内外の大会で活躍。世界2冠を獲得する等、数多くの優勝経験を持つ。その後、アスレティックトレーナーとしてメジャーリーガーやJリーガー、総合格闘家等幅広いクライアントへトレーニングおよび栄養指導を行う。2019年4月にトレーニングのノウハウや食事、ダイエットに関する情報を発信する『VALX 山本義徳 筋トレ大学』を開設し、登録者数72万人を突破。2024年8月には、更に深い知識やより細かいメカニズムを徹底解説した動画コンテンツ『筋トレ大学PRO』を新たに開設し、より上級者に向けたトレーニングや健康に関する情報を発信している。
【主な著書】
・ウェイトトレーニングー実践編ー
・ウェイトトレーニングー理論編ー
・アスリートのための最新栄養学(上)
・アスリートのための最新栄養学 (下)
・最高の健康 科学的に衰えない体をつくる
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