自分の体重を負荷にする「自重トレーニング」は負荷量に限界があるのが欠点ですが、懸垂の場合は自重でも高い負荷をかけられるのがポイントです。
今回の記事は懸垂による広背筋の筋トレに注目し、効果を出すためのコツ・正しいフォームを解説します。解説者はトップアスリートも指導する人気トレーナー山本義徳先生です。
懸垂ができない原因・すぐに役立つ対処法も紹介しています。ぜひご一読ください。
懸垂(チンニング)とは
懸垂は自分の体重を負荷にしておこなう自重トレーニングで、「チンニング」とも呼ばれます。懸垂で鍛えられる筋肉は以下のとおりです。
- 広背筋
広背筋は肩甲骨下部から背骨に沿って伸びる、背中で最も大きな筋肉です。おもに腕を引き寄せる動きで使われます。 - 僧帽筋(そうぼうきん)
首のつけ根から背中に広がる筋肉です。上部・中部・下部に分かれ、懸垂では広背筋だけでなく僧帽筋下部も鍛えられます。 - 大円筋
肩甲骨下部に位置する比較的体積の小さい筋肉です。広背筋をサポートする役割を持ち、懸垂で広背筋を鍛えると大円筋も刺激されて大きくなります。 - 上腕二頭筋
上腕二頭筋は「力こぶ」にあたる筋肉で、長頭・短頭の2つの部位に分かれており、逆手の懸垂で鍛えられます。
懸垂で広背筋を鍛えるメリット
広背筋の鍛え方には、自重を利用するものからダンベル・マシーンを使うものまで、さまざまな方法があります。懸垂で広背筋を鍛えるメリットはどのような点でしょうか?
自重でも高負荷をかけられる
懸垂は自重トレーニングのなかでトップクラスの負荷量を誇ります。さらに、手幅の変更・身体を持ち上げるときのスピードの変更などで、効かせたい筋肉の調整も可能です。
自宅でも気軽に筋トレができる
懸垂ができるバーさえあれば、懸垂は自宅でもおこなえます。近所の公園の遊具を使うのも良いでしょう。わざわざジムまで行かなくても、仕事・家事のすきま時間にサッとできるのが懸垂のメリットです。
自宅で筋トレをおこなえば、ジムの入会費・利用料、トレーニングウェア代がかかりません。ジムに通う時間も不要です。お金も時間も節約できるのが自宅筋トレの魅力といえるでしょう。
引き締まったボディラインになる
筋トレ初心者は腹筋・大胸筋など上半身前面を鍛えがちですが、懸垂で広背筋を中心に背中の筋肉も鍛えると、全身にバランス良く筋肉がつきます。偏りのない引き締まったボディラインが手に入るでしょう。
姿勢が正される
懸垂をおこなうと、背筋はもちろん腹筋・体幹も鍛えられ、正しい姿勢を取りやすい身体になります。
正しいフォームの懸垂にはしっかりした体幹が不可欠ですが、懸垂はぶら下がるだけで身体がまっすぐに伸びるため、自然と姿勢が正しくなる効果が期待できます。
背筋の伸び方とボディラインは見た目年齢を左右する要因になり、猫背の人やボディラインが崩れている人は実年齢より老けて見えがちです。懸垂で引き締まったボディラインと正しい姿勢が同時に手に入れば、見た目年齢が若くなる効果も期待できるでしょう。
肩こりの予防ができる
懸垂には肩周辺のストレッチ効果があり、肩周りの血流が良くなることから、肩こり症状の改善が期待できます。
さらに懸垂で肩周辺の筋肉が大きくなると、筋肉のポンプ機能のパフォーマンスが向上し、血液循環の効率アップも見込めるでしょう。パソコンやスマートフォンを長時間使って肩甲骨周辺が凝りがちな人には、懸垂による筋トレとストレッチがオススメです。
太りにくくなる
広背筋を鍛えて筋肉量が増えると、基礎代謝がアップして消費カロリーが増加し、太りにくく痩せやすい体質に近づきます。
広背筋を鍛える懸垂の方法
広背筋を鍛える懸垂の基本と「斜め懸垂」の方法を紹介します。身体を傾けておこなう斜め懸垂は、基本の懸垂と違い足を地面につけた状態でおこないます。負荷が比較的少なめで、基本の懸垂ができない人や筋トレ初心者にオススメの方法です。
懸垂に使えるバーがない自宅でもできる、テーブルを使った斜め懸垂の方法も紹介します。
基本の懸垂
基本の懸垂では、ひじは下ではなく背中側に引きます。胸を張って肩甲骨を引き寄せるようなイメージでバーに近づくのがポイントです。
1. 手の幅は肩幅よりやや広めに取り、手の甲を自分に向けてバーを握る
2. バーに近づけるように胸を張り、ひじを背中側に引いて身体を引き上げる
3. あごとバーが同じくらいの高さまで身体を上げる
4. 上がりきったらその状態をキープ
5. ひじが伸びきらない程度までゆっくりと身体を下ろす
斜め懸垂
斜め懸垂では、地面に足をつけたまま身体を斜めにして上体を引き上げます。筋トレ初心者でも取組みやすいのが魅力です。
1. バーをおへそ辺りの高さにセットする
2. 腕を肩幅よりやや広めに開き、手の甲をうえにしてバーを握る
3. 身体はまっすぐに保ったまま、地面から45度以下になるまで脚を前にずらしていく
4. かかとだけを地面につける
5. 広背筋を意識して、肩甲骨を寄せるイメージで身体をバーに引き上げる
6. 腕を伸ばしながらゆっくり身体を下ろしてもとに戻る
身体を引き上げるときはお尻が下がらないよう意識しましょう。肩甲骨への負荷が減ってしまいます。また、ひざが曲がると脚の力を使ってしまうため要注意です。
自宅で簡単にできるテーブルを使った斜め懸垂
自宅での斜め懸垂にオススメなのが、テーブルを使う方法です。テーブルの下に入ってテーブルのフチをつかみ、以下の要領で斜め懸垂をおこないます。
1. テーブルの下で仰向けになり、両手でテーブルのフチを持つ
2. 胸をテーブルに近づけるイメージで、ひじを背中側に引き寄せ身体を引き上げる
3. ゆっくり腕を伸ばしてもとに戻る
テーブルが軽すぎると体重でひっくり返るおそれがあるため、重めで安定感のあるテーブルを選びましょう。頑丈なテーブルがない場合、チンニングバーなどのトレーニングアイテムを用意してください。
懸垂で広背筋を鍛える際のコツ
筋トレはコツを押さえておこなうと効率がアップします。懸垂で広背筋を鍛える際は、以下の点に注意しましょう。
毎日やらず休息を取る
筋肉を大きくするためには休息が必要です。休息なく毎日同じ部位を鍛えると、筋肉に回復の時間がありません。
筋肉は筋線維からできており、筋線維が大きくなり体積が増えることで肥大します。懸垂で筋肉が刺激を受けると、筋線維の一部が破断されてしまいます。適切な栄養・休養が与えられるとダメージを受けた筋肉が修復に向かい、破断された筋繊維が太くなって筋肉が大きくなる仕組みです。
破断された筋繊維が太くなって回復する状況が繰り返されることで、筋肉体積が増えます。「トレーニング→休息→回復→トレーニング」の繰り返しで筋線維は太くなり、筋肉の増加が実現するのです。
筋肉の回復には72時間ほどかかるといわれています。回復時間を考慮してトレーニングのスケジュールを組みましょう。
フォームを意識する
懸垂は、反動を使った素早い動作でおこなっても高い効果は得られません。間違ったフォームで懸垂を繰り返すとケガのリスクもあります。
筋トレに慣れるとつい自己流になってしまいがちですが、回数よりも正しいフォームを意識してください。
フォームチェックのときは、鏡を利用するか第三者に見てもらいましょう。スマートフォンで動画を撮影するのもオススメです。
バーを強く握らない
バーを強く握ってしまうと腕を使って身体を引き上げることになり、広背筋の筋トレ効果につながりません。「支えているだけ」くらいのソフトなイメージでバーを握ってください。
呼吸を止めない
筋トレの効果をアップするためには、呼吸が大切です。懸垂の場合、身体を「引き上げるときに息を吐き」、「下ろすときに息を吸う」が基本です。正しいフォームだけでなく、正しい呼吸も意識してください。
初心者は無理せず少しずつ難易度を上げていく
筋トレ初心者は張り切ってハードルを上げがちですが、初心者は最初から目標を高くせず、少しずつ難易度を上げていきましょう。
目標を高く設定すると達成が難しいうえ、目標に届かなければモチベーションが下がってしまいます。また、反動を使うような無理なトレーニングは、ケガのリスクも高くなり逆効果です。
徐々に難易度を上げていけば、フォームを意識する余裕も持てるため、効果的なトレーニングになるでしょう。
反動を利用せず効かせたい部位を使う
反動を使うと鍛えたい部位とは異なる部位に力が入り、筋トレ効果が減ってしまいます。フォームも乱れがちになり、ケガのリスクも高まるでしょう。
ポイントは、反動を使わず筋肉を収縮・伸張させることです。初心者の場合、最初は反動を使ってしまうこともあるかもしれませんが、反動を使わない懸垂を目標にトレーニングを重ねてください。
以下の記事では、2019年4月にYouTubeチャンネル『山本義徳 筋トレ大学』を開設し、登録者数55万人を超える山本義徳先生が懸垂に関して解説しています。こちらもぜひご一読ください。
懸垂ができない原因と対処法
懸垂ができないとお悩みの人も多いようですが、できるようになるためには、なぜできないのか原因の特定が大切です。
懸垂が上手くできない原因の多くは「筋肉量」と「体重」にあります。ここでは、それぞれの詳細と対処法を見ていきましょう。
筋肉量が足りない
懸垂ではおもに広背筋が使われますが、筋トレの習慣がない多くの人は、広背筋があまり発達していません。背筋を鍛えるメニューに積極的に取組みましょう。
背筋だけでなく、ほかの上半身の筋肉不足も問題です。懸垂に必要な上腕筋・上腕二頭筋・上腕三頭筋などもしっかり鍛えてください。
一般的に体脂肪率が30%を超える人は筋肉割合が少なめです。体脂肪率を減らして筋肉量を増やすために、脂肪燃焼目的のメニューをトレーニングに入れることをオススメします。たんぱく質・脂質・炭水化物の栄養バランスの取れた食事内容も大切です。筋肉量が増えれば基礎代謝が上がり、痩せやすくもなるでしょう。
体重が重い
懸垂は自分の体重を利用する自重トレーニングのため、体重に比例して負荷が大きくなり、体重が重ければ重いほど筋力が必要です。例えば、体重80kgの人と50kgの人で比べると、負荷に30kgの差があります。
「体重が重すぎる=負荷が大きすぎる」ことになるため、重すぎて懸垂ができない人は、まず体重減少を目指しましょう。
フォームが正しくない
筋肉量・体重に問題がないのに懸垂ができない場合、フォームが正しくない可能性があります。次の点を確認しましょう。
- バーの握り方
強く握りしめない、支えるぐらいのイメージで握る - 力の入れ方
肩に力を入れず肩甲骨を寄せる - 手幅
狭すぎるのも広すぎるのもNG
まとめ
懸垂は自重で高負荷がかけられ、自宅でもできる筋トレです。懸垂で広背筋を鍛えるとボディラインが引き締まり、正しい姿勢がキープできるようになります。肩こり解消効果も期待できるでしょう。
懸垂は「基本」と「斜め」のやり方があり、斜め懸垂は初心者にオススメです。休息・フォーム・握り方・呼吸・反動に注意して、結果につながる懸垂をおこなってください。
懸垂ができない場合、筋肉量・体重を見直し、改善しましょう。
監修者情報
山本 義徳(やまもと よしのり)
1969年静岡生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、ボディビルダーとして国内外の大会で活躍。世界2冠を獲得する等、数多くの優勝経験を持つ。その後、アスレティックトレーナーとしてメジャーリーガーやJリーガー、総合格闘家等幅広いクライアントへトレーニングおよび栄養指導を行う。2019年4月にトレーニングのノウハウや食事、ダイエットに関する情報を発信する『VALX 山本義徳 筋トレ大学』を開設し、登録者数72万人を突破。2024年8月には、更に深い知識やより細かいメカニズムを徹底解説した動画コンテンツ『筋トレ大学PRO』を新たに開設し、より上級者に向けたトレーニングや健康に関する情報を発信している。
【主な著書】
・ウェイトトレーニングー実践編ー
・ウェイトトレーニングー理論編ー
・アスリートのための最新栄養学(上)
・アスリートのための最新栄養学 (下)
・最高の健康 科学的に衰えない体をつくる
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